入管予算を倍増へ――審査の迅速化・厳正さには、まず人と予算が必要だ

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法務省は2027年度予算の概算要求で、外国人の出入国・在留管理に関する経費を大幅に増額する方針を固めた。8月26日の報道によれば、法務省全体の概算要求額は約9856億円で、2026年度当初予算比で約15.7%増。そのうち出入国在留管理関連の経費として807億円を計上する方向である。

一部では「入管予算を倍増」と報じられているが、数字を見る際には予算項目の範囲に注意する必要がある。法務省が2026年度予算で「出入国及び外国人の在留の公正な管理の推進」として計上した額は489億3300万円であり、807億円との単純比較では約1.65倍となる。対象となる経費の範囲が異なるため、「倍増」という言葉だけではなく、その中身を見ることが重要である。

今回の概算要求で特徴的なのは、単に外国人政策を厳格化するためだけの予算ではないということである。

外国人の入国可否を渡航前に審査する電子渡航認証制度「JESTA」の導入に向けた開発費などに264億円を計上するほか、在留申請オンラインシステムの改修、不法滞在者の摘発強化なども盛り込まれる。つまり、入口となる入国審査から、日本国内での在留審査、在留管理、さらに違反者への対応まで、入管行政全体の処理能力を引き上げようとする予算と見ることができる。

この方向性自体は妥当だと考える。

ここ数年、外国人をめぐる議論では「審査を厳しくするべきだ」「ルールを守らない外国人への対応を強化するべきだ」という声が目立つ。

しかし、制度を厳しくするだけで行政が機能するわけではない。

どれほど厳格な法律や審査基準を作っても、実際に申請書類を確認し、事実関係を調査し、許可・不許可を判断する職員が足りなければ、審査期間は長期化する。

現実に、日本の在留外国人数は増え続けている。2025年末には約413万人となり、2022年末に300万人を超えてから、わずか数年間で約100万人増加した。

それに伴い、在留資格変更、在留期間更新、永住許可、家族滞在、就労資格など、入管が処理する申請も増える。

さらに今後は、育成就労制度の開始、特定技能制度への対応、在留カードとマイナンバーカードの一体化、JESTAの導入など、新しい制度への対応も重なる。

仕事が増えているのに、人員やシステムが従来のままであれば、審査が遅くなるのは当然である。

そこで重要になるのが、職員の増員である。

政府は今年7月、出入国在留管理庁の定員を緊急に226人増員することを決定した。内訳は入国審査官176人、入国警備官50人であり、不法残留者への対応強化とともに、在留審査の迅速化・厳格化を目的とした措置である。

これは大きな意味を持つ。

特に注目したいのは、「審査の迅速化」と「審査の厳格化」は決して対立するものではないという点である。

審査を厳しくすれば時間がかかる、と考えられがちだが、必ずしもそうではない。

十分な人数の審査官と適切な情報システムがあれば、問題のない申請は速やかに処理し、疑義のある案件には時間と人員を集中させることができる。

逆に人手不足の状態では、適正な申請も不適正な申請も同じように滞留してしまう。

その結果、真面目に働き、日本で生活している外国人や、外国人を適正に雇用している企業まで長期間待たされることになる。

在留審査の長期化は、単なる行政手続上の不便ではない。

企業にとっては採用計画や人員配置に影響し、外国人本人にとっては転職、就職、家族の呼び寄せ、住宅契約、将来設計にまで影響する。

特に永住許可のように審査が長期化している手続では、「いつ結果が出るのか分からない」という状態そのものが大きな負担となる。

もちろん、予算を増やせばすべて解決するわけではない。

重要なのは、その予算を何に使うかである。

巨大なシステムを導入しても、現場の入力作業が増えるだけでは意味がない。オンライン申請を拡充しても、提出された情報を職員が別のシステムへ入力し直しているのであれば、本当の意味でのデジタル化とは言えない。

行政機関同士の情報連携を進め、定型的な確認作業をシステム化し、審査官が本当に判断を必要とする案件へ集中できる環境を作る必要がある。

また、審査期間についても、さらに透明性を高めるべきだろう。

現在も入管庁は在留審査処理期間を公表しているが、申請人や企業が本当に知りたいのは平均的な処理日数だけではない。

「現在、いつ頃申請された案件を処理しているのか」「自分の申請がどの段階まで進んでいるのか」といった情報である。

オンライン申請システムの改修に予算を投入するのであれば、申請後の進捗状況をある程度確認できる仕組みにまで踏み込んでほしい。

さらに、「厳格化」という言葉にも注意が必要である。

厳格化とは、外国人に対して一律に厳しくすることではない。

守るべきルールを明確にし、違反には適切に対応する一方、要件を満たしている申請については速やかに許可することこそ、本来の「厳格かつ円滑な出入国在留管理」である。

行政の役割は、単に許可を絞ることではなく、適法な人とそうでない人を迅速かつ正確に区別することである。

今回の予算増額を「外国人のために多額の税金を使う」とだけ見るのも適切ではない。

入管行政に必要な費用は、外国人を受け入れるためだけのものではなく、審査、情報照合、資格外活動や不法滞在への対応、退去強制、難民認定、空港での出入国審査など、国の出入国管理そのものを維持する費用である。

外国人の数が増えれば、許可するための仕事だけではなく、違反を発見し、適切に対応するための行政コストも当然増える。

したがって、外国人の受入れに慎重な立場から見ても、入管庁の人員と予算を増強することには合理性がある。

むしろ問題なのは、外国人の受入れ規模が拡大してきた一方、それを管理する行政インフラの増強が後追いになってきたことではないだろうか。

政策として外国人材の受入れを進めるのであれば、その人数に見合った審査官、警備官、情報システム、相談体制まで同時に整備しなければならない。

入口だけ広げて管理部門を据え置けば、審査の遅延と在留管理の粗さが同時に発生する。

今回の大幅な概算要求は、ようやくその歪みを修正する動きとも見ることができる。

日本では少子高齢化と人手不足が進み、すでに多くの産業が外国人材なしでは成立しにくくなっている。

一方、在留外国人が増えれば、不法滞在、偽装就労、税や社会保険料の納付状況など、適正な在留管理の重要性も増していく。

受入れ拡大と管理強化は、どちらか一方を選ぶ問題ではない。

両方を同時に進めるために必要なのが、十分な予算、人員、そして情報基盤なのである。

今回の法務省の概算要求は、その意味で入管行政の転換点になる可能性がある。

これまで審査の遅れを「申請が増えているから仕方がない」と済ませてきた状態から、予算と職員を増やし、システムを整備して、真正面から処理能力を高める方向へ動き始めたからだ。

今後見るべきなのは、「入管予算が倍増した」という見出しだけではない。

その結果として、在留審査が実際に何日短縮されたのか。永住許可など長期化している審査が改善されたのか。不適正な申請や不法滞在をより正確に把握できるようになったのか。そして、現場の入管職員の負担が軽減されたのか。

そこまで確認して初めて、今回の予算増額を評価することができる。

制度をさらに厳しくする前に、まず現在の制度を十分に運用できる体制を作る。

今回の概算要求がその第一歩となるのであれば、入管行政にとって非常に大きな意味を持つ。

厳格な審査と迅速な審査は両立できる。

そのために本当に必要なのは、精神論ではなく、職員の増員と十分な予算、そして現場で実際に機能する仕組みなのである。